東京モーターショー2017。
今年は何と、当TIMEWARP RIDERS CLUBも個人ブログながら、一般公開に先駆けてメディア取材が許されました。
プレスカンファレンスでは、次々とシークレットマシンたちのベールをはがされる瞬間に立ち会い、各メーカーの社長さん達から世に送り出すマシンたちへの思いを伺うことができました。
「EV」・「自動運転」が4輪の世界ではこの二つは大きなキーワード。
数々の先進技術が世界初披露となる中、ヤマハ・ホンダの2社はロボット技術を応用した自動自立型のバイクを披露しました。
「バイクも自動運転」
いつかそんな日が来てしまう?いや来るのでしょうか?
「モビリティー産業の次のミッションを指し示す」をテーマに、「ビヨンドザモーター」と銘打たれた今回のモーターショー。
今回はメーカーが考えるバイクの将来とを解説しながら、普通の目線をビヨンドした(超えた)モーターショーの見方を考えていきます。
目次
もの凄い様変わりぶりだと思う
覚えていますか?
幕張メッセで開かれていた1997年の第32回モーターショー。
ヤマハブースには、初代YZF-R1が展示されていましたね。
あの衝撃を覚えている人も少なくないのではないでしょうか?
あぁおぼえとるよぉ、あれはわしがまだ28歳の頃、R1を見てその足でバイク屋に予約に走ったもんじゃぁ。
その後のモーターショーでは、「いかに逆輸入車で尖がって見せるか合戦」の様相が強かったですよね。
でも、昔のモーターショーの記憶を頼りに、久しぶりに来られた方は「今回はだいぶ指向が違うな」と思われたかもしれません。
今年のモーターショーでは、2018年モデル(新型の)のスーパースポーツバイクの出展は一台もありませんでしたからね。
「レース志向のバイクのとんがり合戦をまんま公道に持ち込む流れはメインじゃないんだな。」
きっとそんな風に思われた方もいるかもしれません。
勿論motoGPで魅せてくれたように、レーストラック上のとんがり合戦は我々のバイクを良くするために続いていて、それは変わらないんです。
ただ、今はもっと違う競争をしなけりゃなならなくなったと思うんです。
まぁ競っているところもあり、コンソーシアムといって、一社だけでは難しいところをライバル会社同士であっても手を組んで開発したり。
なので、誰が前に出るかっていうただそれだけの競争じゃなくて、高い山の上に「EV」と「死亡事故半減」て旗が立ててあるから、とりあえずみんなでそれを取りに行こう見たいな競争。
今回はこれがメインでしたね。
なので今一度コンセプトバイクたちを思い出してみてください。
市販型に近づくもの、ショー一回で忘れ去られるもの。
いままでもコンセプトバイクは色々ありましたけれど、今回ほどそういうコンセプトバイクの存在意義が高い年もそうはないと思います。
EVへの流れバイクはどうなる?
2017年、イギリス政府は2040年から、内燃機関を使った自動車の販売を禁止し、2050年にはモビリティーの完全なゼロエミッションを実現させると発表しました。
そう遠くない将来、世界的に内燃機関を持った車両はなくなっていくだろうと言われ、世界的にEVへのシフトが加速しているところです。
また、事故を未然に防ぐことを車の性能の中に求める傾向が強く、レーダーアシストブレーキの普及や、自動運転技術の発展をはじめ、ITを活用した交通事故防止技術の開発なども整備されつつあります。
「EV化」、そして「ITによる事故防止。」
今回のモーターショーの見どころはズバリ、世界の自動車会社がこの難題にどういう答えを出すのかということ。
今回4輪はもちろん、2輪の出展にはコンセプトバイクという形で、その方向性が具体的に方向づけられたものが見られたのが特長です。
中にはかなり市販モデルに近いものを出してくるメーカーもありました。
特にホンダは、「カーボンフリーの社会を目指す」ということで4輪には市販予定のプラグインハイブリット車やEVのテーマ車両を多数出展。
2輪ではPCXをベースとした「PCXエレクトリック」を展示しています。
ホンダはCBR1000RR-sp2に量産車初のリチウムイオンバッテリーを搭載していますね。
このバッテリーはこれまで住宅用電源電池を開発した実績のあるエリーパワー社との共同開発。
原付一種クラスよりもさらに航続距離を期待したい原付き2種クラスへのEV投入を可能としたとなれば、恐らく同社の最新リチウムイオンバッテリーが搭載されているものと思われます。
またホンダは同時に、二輪車初となるハイブリットスクーター、「PCXハイブリッド」も来年発売予定とアナウンスしています。
サイドの「HYBRID」の文字が見えますか?
これらの発売が既に来年に迫っているというから驚きです。
既に原付1種クラスではいくつか市販を見ていますが、バイクでEVの流れは、こういう需要の高い原Ⅱクラスからさらに加速していくのかもしれませんね。
恐らく他メーカーも何らかのものをスタンバらせているんじゃないかと思います。
バイクはロボットになっちゃうの?
「バイクが勝手に走ってる!」
2017年の春ころ、そんな動画を見て驚いた人もいますよね。
参考元;本田技術研究所
このとき公開された映像に移っていたバイクはNC750 がベースだと聞いていましたが、映像にこのバイクの音が入っていなかったので電動かどうかはわかりませんでした。
確かエンジンやマフラーもついていた気がします。
でも今回出展されたホンダの Riging Assist-e(ライディングアシストe)。
このバイクは完全なEV車です。
それだけではなく、さらに「将来のバイクの安全」と「人にとってのバイクの楽しさ」を研究する上で開発されたものです。
当TIMEWARP RIDERS CLUBではこれまでの取材で、ホンダR&Dの上席研究員 林 徹(はやしあきら)氏より、ホンダが目指すバイクの将来像を伺っています。
ホンダR&D 林 徹 上席研究員
要約すると、やはり完全に機械が何でもしてくれるようなことをバイクに求めているのではないのだと言います。
つまり転倒を防止することを念頭に開発をすすめている。
ただ、あくまで主役は人、そうでなければバイクは面白味を失う。
例えば人がエラーを起こしやすい部分、その場面で人の判断をアシストをするために開発している。
ということでした。
関連記事;バイクもそのうち自動運転?ホンダR&D上席研究員に聴いたバイクの未来像とは?
このバイクもホンダが長年研究を重ねているASIMOの技術を応用したもの。
ASIMOにしてもそうですが、「人って何だろう」ということをロボットでたくさん失敗しながら研究してきたわけですね。
Riding Assist-eにしても、それは同じで、
「人の何をどう手伝えば、楽しさをスポイルすることなく安心・安全なバイクをつくることができるか」
そういう思いがこのコンセプトバイクには詰まっているのです。
それは余興的なものではなく
もう一つ。
今回はヤマハの出展するコンセプトバイクも見ものです。
「IT」 vs.「天才」
まずはMOTOBOT Ver2。
こちらはあまり改造が加えられていないYZF-R1Mにロボットが乗っています。
もうご存知の方も多いですよね。
良く見かける動画では、このロボットが、あのバレンティーのロッシ選手と対戦して勝つために造られた。
その話ばかりが取り上げられています。
今回のカンファレンスでは、実際にロッシ選手と対戦して、MOTOBOTが敗れるという場面がプレミア公開されました。
MOTOBOTも200km/h が可能になったと言いますが、遠く及びませんでした。
世間的にはそれでおしまいなんですが、このロボットの開発意図はそれだけではありません。
筆者は会場でヤマハの方からこんなお話を伺うことができました。
MOTOBOTには人にできないことができます。
でも、人が当たり前にやることができないんです。
例えば車体が滑りそうだと思ったら、とっさにカバーする体制を人間ならとろうとする。
しかしこのMOTOBOTにはそういった細かい「当たり前」をひとつひとつプログラム上に教え込んであげないとできないんですね。
私たちはこの先バイクでEVかが進んだとしても、「バイクが楽しい」という感覚をどう守っていくか、あるいはどうやってより高めていくのか?
これを考えているんです。
ですから我々は、MOTOBOTは組み込まれた無数のセンサー群から「人がどうバイクを動かしているのか」、そして「バイクの操縦の中で何を楽しいと感じているのか」
これを探っています。
そういった実に感覚的なことを可視化できるようにすることで、より安全でかつ楽しいバイクができるのではないか?
そのためにMOTOBOTが創られたんです。
ロッシとの対戦で勝利するのはまだ先のようですが、実はこんなに大きな使命を持っていたMOTOBOT Ver2。
まだまだ応援したいですよね。
そして今回ヤマハブースではもう一台のコンセプトバイクがブースの舞台でセンターを務めています。
それがこのMOTOROiD。
今までヤマハのこうしたコンセプトバイクは、静的な言ってみればフィギュアのようなものが多かったように思います。
しかしこのMOTOROiDは動きが一番の見どころ。
カンファレンスでは柳博之社長が、「Come on Motoroid!」と手招きをするとMOTOROiDが自らバランスを取って起き上がります。
すると、社長にスーッと近づいて立ち止まり、写真のようにスイングアームをくねらせて見せます。
それは、まるで社交界でレディーが膝を曲げて「ごきげんよう」と上品にお辞儀しているかのようなしぐさです。
MOTOROiDにはAI(人工知能)が仕組まれていて、顔認証で人を識別します。
またその人が呼ぶ声や手招きなどの仕草も判断して、自立し動くことができるんです。
このMOTOROiDは「人機官能」を旗印に、バイクとの一体感を重視するヤマハが、バイクとの一体感を研究するために造りあげたもの。
走りから得られる感応に加え、呼べば応えるインターフェイスを備えたのは、バイクと直接「意思」をかわす形でその「一体感」を高度に具現化したものなのです。
今後バイクにもITSと呼ばれる事故事前検知機能を含む高度安全運転支援装置が組み込まれる見込みです。
インタラクティブ(相互作用)を可能にする要素が組み込まれるというのは、そういった開発の一端ということも言えるでしょう。
まとめ
今回の出展車両は、「ぱっと見だけではわからない部分が多いのではないか?」
そんな風に思ったのが今回の執筆動機です。
コンセプトモデルはいつもそのメーカーの方向性が詰まっているわけです。
特に今回はEV化や安全技術強化という流れの中で、その存在意義が一層深いものになった。
そういう印象を受けるでしょう。
特に各メーカーが一番力を入れているのが、「バイクの楽しさ」を残し、もっと豊かにするかという研究。
ですのでコンセプトモデルの形の中に秘められている「作り手の思い」。
これをぜひ受け取っていただければと思います。
実は最近まで筆者はカリフォルニア州に住んでいました。
テスラも数多く走っていてFITやGOLFといった車も、日本では見ませんがEVが走っています。
街のショッピングモールの駐車場には大きなEVゾーンがたいてい整備されていて、充電しながら駐車している車が並んでいたりします。
まだ数は少ないですが、電動のバイクもその中に混じっていて、たまに「きゅいーんという音を立てて」走っているのを見かけました。
「昔はデトロイトで車ができたが、今はシリコンバレーで車が造られるようになった」なんて、あちらではそんな風に言われています。
こうしたことは未来ではなくて今、海を渡れば見られる光景。
何が言いたいかというと、未来と思っているものは結構具体的な形で、既に我々のすぐそばにある。
ということです。
モーターショーで舞台を飾るコンセプトカーたちは、そんな未来の近さを示してくれています。