バイク雑誌やカタログを見ているときに、難しい言葉に出会ったり、数字の意味が良くわからないときってありませんか?
例えば、「400㏄は250㏄より力が強いんだろう」と思ってカタログなどを見比べてみると、中には400㏄のバイクより馬力の強い250㏄のバイクがあったりする。
つまり排気量さえ大きければ当然馬力も強いと考えていたのが、どうやらそうではないらしい。
また、同じ排気量でも単気筒のものや2気筒4気筒のものもあるし乗ってみると2気筒の方が力があるように思えたりする。
「なんでだ―?!」
そう思いつつも「まっいっか?」とスルーしてる。
そういうウヤムヤになってる疑問ってありません?
バイクの中で、「力とは?」というと非常にいろいろな要素があるものです。
最もその要因をつくっているエンジンなのですが、エンジン一つとっても何が「力」を決定づけているのかは多岐に及びます。
なので、今回はエンジンとその大きさついてに的を絞ってお話しますよ。
バイクの「力」のなぜを知ってカタログやバイク雑誌をもっと楽しく読んじゃおうというお話です。
排気量や「馬力」「トルク」を理解できると…
エンジンに関する専門用語もいっぱいあってとっつきにくいものも多いですよね。
用語が何を、或いはどんな作用について言っているのかを頭の中でイメージするのは難しいことかもしれません。
でもエンジンの中の動きがイメージできるとバイクの乗り味を人から聞いたり説明をするときによりスムースに伝えられます。
バイク雑誌なんかのインプレッションをより深く理解できるようなるし、カタログでバイクを比較するというときも解り易くなりますよ。
例えば「エンジンの大きさって何ですか?」と聞かれたとしたらあなたは何とお答えになりますか?
そうですね、「詳しくは無理でも何となく」という人もいるでしょうし、全くわからないという人もいるでしょう。
ボンヤリとしたイメージでも結構です。
「何がどう動いているのか?」
この辺をイメージしてエンジンの容量や「馬力」「トルク」といったバイクの力にかかわる単語の意味をつかんでいきましょう。
目次
エンジンの大きさと言えば?
「エンジンの大きさ」といったら普通は全体の大きさの事ではなくて、エンジンの内容量のことを言うんですね?
排気量・何㏄って
250㏄とか1000㏄とか数字が大きくなるほどバイクの車体も大きくなるわけですが、
この「何㏄」というのは、本来車両の大きさを表しているのではなくてエンジンの燃焼室の容量(大きさ)を表している単位です。
日本ではこの何CCという単位、つまり 排気量によって税金の額とか、免許のクラスが分かれています。
でも同じ排気量でも2気筒だったり4気筒だったり、
排気量が同じなのに「馬力」や「トルク」といったカタログ上の数値が違うものがある。
今回はそのあたりの疑問をひとつづつお話ししてい行くのですが、最初にこの「排気量」というものがどういうことを指す言葉なのかをお話しします。
エンジンの中にはシリンダーがあって、その中でピストンが絶えず上下動を繰り返して、それを回転運動に換えている。
これは教習所でも習いますから多くの方はたぶんご承知だと思います。
その中で「エンジンの大きさ」と言われたら…
このことを「エンジンの排気量」とを言います。
↑この図で言えば青いところが排気量の容積(㏄)になります。
同じ排気量でもいろんなエンジンがあるのはなぜ?
小1で習う容積の概念についてのおさらい。
ボア×ストロークのお話
例えば250㏄同士で比べてもで口径の太いピストンを短く上下に動かすエンジンもありますし、口径の細いピストンを上下に大きく動かすエンジンもあるんです。
図にするピストンとクランクの長さの関係はこんな↓感じです。
ピストンを上下に動かすことを「ストローク」と言い、上下動の長さを「ストローク長」と言います。
このストローク長が少なければ「ショートストローク」といい、長ければ「ロングストローク」というふうに呼びます。
実はピストンの大きさとストロークの長短には無数の組み合わせがあるんです。
同じ容量(排気量)でも、異なる性質のエンジンがあるのは…。
- ピストンの口径と上下の動きの長さがそれそれのエンジンで違うこと。
- これによって、エンジンの性質もそれぞれ違うものになる。
だったのです。
ボア×ストロークのバリ―ションと力の関係
じゃぁ、ボアやストロークの長さが違うことでどうしてエンジンの性質が変わって来るんでしょうか?
それは、エンジンの中で「てこの原理」が働いているためなのです。
「エンジンの中のてこの原理」
「てこの原理」理科でやりましたよね。
↑ 忘れてたらちょっと思い出してください。
要するに「重いものでもより長い棒をてこにすると、ちょっとした力でも動かすことができるようになる」というものです。
確か図のように「作用点」で何かを持ち上げたいとき、「支点と力点との距離を長くする」と力点で入れた軽いが力作用点ではより大きな力となって発揮される。
というものでしたね。
図のようにクランクシャフトの中心が「支点」になっています。
コンロッドとクランクシャフトが接合している点が「作用点」になります。
「力点」はピストンとコンロッドの接合点です。
短所 | 特長 | |
A エンジン (ショートストローク)
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クランクシャフトの半径が小さいので、コンロッドは短いものになります。
エンジンを回転させようとするには、Bよりも大きな力が必要です。 これは支点が作用点に近く、作用点までの距離も短いためです。 燃焼回数が多いので、燃費に影響する。 |
コンロッドが短いため、ピストンの往復運動は速くなり、一分当たりのエンジン回転数はBより速くなります。
エンジンの回転数が多くすくことができ、1分当たりの燃料の燃焼回数が多いということで、高回転時に力を発揮する車両に向いている。 エンジンを小型コンパクトにできる。 振動が少ないエンジンになる。
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B エンジン (ロングストローク)
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コンロッドが長くなるため、ピストンの往復に時間がかかるため、エンジンを速く回すことができない。
一般的に振動が大きいと言われている。 |
クランクシャフトの半径が大きいので、エンジンを軽い力で回すことができる。
エンジンをゆっくり回しているときに力を多く発揮するゆったり型の車両に向いている。 比較的燃費が良いエンジンができる。 |
バイクの開発ではいくつものピストンやストロークの組み合わせが試作検討されて、そのバイクのキャラクターに最も適した組み合わせが採用されるわけです。
同じ排気量の中でもバイクの性質、つまり「乗り味」がそれぞれ異なるのは、クランクシャフトの太さとそれに伴うコンロッドの長さでピストンに掛る「力」が違うためだと」いうのがお分かりいただけたでしょうか?
- ゆったり走らせたいバイクには低回転で力を発揮するロングストロークのエンジン。
- 高回転でスピードや力の伸びを求めたい場合にはショートストロークのエンジンが選択される傾向にあります。
よく言う「気筒」ってなに?
気筒というのはピストンが上下動している筒状の部屋を「シリンダー」というんですが、日本語では「気筒」と言います。
よく「何気筒」とかいうあれです。
そして、同じ排気量でも気筒数が違う場合がありますね。
例えば、「単気筒」と言ったら一つのシリンダーの中で一つのピストンが上下しているもの。
「2気筒」と言ったらそのセットが一つのエンジンに2組あるもの、3気筒なら3組・4気筒なら4組…12気筒16気筒。
という具合です。
例えば250㏄でも単気筒もあれば2気筒もあります。20年か30年前までは250㏄でも4気筒のバイクもありました。
2気筒ならおよそ125㏄が2本、400㏄ならばおよそ100㏄の気筒を4本ならべてあるということです。
4ストロークの燃焼行程をちょっとだけおさらい
多気筒化の理由をご理解いただくために、ちょっと下の図でエンジンの燃焼行程と燃焼の回数をおさらいしてください。
これは代表的な4ストロークエンジンの工程図です。
エンジンはガスが燃焼するときの膨張圧力でピストン下に圧されて、ピストンが図の黒い部分「クランクシャフト」を回転させています。
一般的にガスの「吸入」⇒「圧縮」⇒「燃焼」⇒「排気」という4工程を行う4ストロークエンジンが主流です、
この形式のエンジンの中ではクランクシャフトが2回転(720°)する間に1回の間隔で燃焼が起きています。
多気筒化の理由
先述申し上げたように、バイクのエンジン内では、「テコの力」がかかっており、ショートストロークのエンジンでは、「エンジンを回すとき、ピストンに大きな力が必要になる」とお話しさせていただきました。
それに対抗するべくストロークが短ければ、ピストンを大きくしてやるといいのです。
しかし単気筒で排気量の大きなショートストロークエンジンを造る場合には、いくつか欠点が出てきてしまいます。
- ピストンを大きくすれば音や振動が大きくなりがちで、ピストン自体が動きの上で抵抗になってしまいます。
- 何よりクランクシャフト720°に一回の燃焼のサイクルは変わらないので性能も限られてしまいます。
単気筒では720°に一回しかない気筒の休止と燃焼のタイミングを分担させてクランクシャフト360°に一度の燃焼、あるいは180°、90°に一回などタイミングを分けて燃焼させることができるようになります。
こうして気筒分割することにより、さらに多くのパワーや粘り強さといった出力に対する特性を得ることができます。
またピストンの上下動でできる振動を互いのピストンで打ち消すことができるなど、ボア×ストロークの組み合わせに加え、気筒を分割することで、バラエティーに富んだバイクの個性を創造することができるのです。
ちなみに、気筒配列の方法もV型とか直列など色々あるのですが、その効能などはまた別の機会に詳しく説明することにして、ココではエンジンの内容量と力についてお話を続けます。
排気量とバイクの「力」の不思議
これらを具体的にイメージしやすいように、CB400SF・ドラッグスター400クラシック2台の諸元表から一部抜粋したもので比較していきます。
「排気量」と「ボア×ストローク」そして「馬力」や「トルク」の関係を諸元表の数字を見ながら解説ていきますね。
バイク名 |
http://www.honda.co.jp/ |
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/ dsc4/color.html |
Honda CB400SF | Yamaha Drugstar400 | |
エンジンの種類 | 水冷4ストローク DOHC4バルブ 並列4気筒 |
空冷4ストローク SOHC2バルブ V型2気筒 |
排気量 | 399cc | 399cc |
ボアストローク (内径×工程) |
55.0㎜ × 42.0㎜ | 68.0mm×55.0mm |
最大トルク (N・m[kgf・m]/rpm) |
38N・m (3.9kgf・m) /9,500r/min |
31N・m (3.2kgf・m) /6,250r/min |
最大出力 (kW[PS]/rpm) |
39kw[53ps ] /10,500r/min |
22kW[30PS]/7,500r/min |
はい、メーカーの諸元表を見てみるとたいていこんな風に書いてあります。
まず見て欲しいのは「最大出力」というところ。
「PS」というのが「馬力」を表す数値です。
この「最大出力」のデーターを2台比べてわかるのは…
多分それは見て取れるのではないかと思います。
諸元表をの値をイメージして読む込もう
ボアストロークで形成される排気量は円柱の容積ですから、容積を求める公式はたしか「底辺の半径×半径×円周率(3.14)×高さ」でしたね。
CB400SFはボア(ピストンの太さ)55.0㎜×ストローク(上下動の長さ) 42.0㎜ です。
つまり(55.0÷2)²×3.14×42.0で一気筒あたり99,73㏄ということになります。
それが4本並んで398.9㏄の約400㏄になっているというわけです。
一方、ドラッグスター400は2気筒
ボアストロークは 68.0mm× 55.0mm なので1気筒で199.64㏄。
2気筒で総排気量が399.28㏄となります。
ドラッグスター400の方が太いピストンを CB400sfより長い上下幅で動かすロングストローク型だということがわかりますね。
反対にCB400SFはこの中で一番小さいピストンを一番短いストロークで動かす「ショートストローク型」。
一気筒だけを見れば一番小さいエンジンですよね。。
「馬力」ってそういえば何だろう?
馬力というのはザックリ言うと、「そのエンジンが発揮する力をどれだけの回転数(本来は時間)まで力を増し続けられるのか?」という定義で測られる力のことです。
つまり自転車でいうと次のようなイメージです。
例えば自転車をあなたが「もう無理」ていうまで力いっぱい漕いで加速していったとしてます。
力いっぱいで限界の時点でどれくらいの[力]だったのか?/それは1分間にしてペダルの回転数がいくらの時達したのか?
表の中では「kW[PS]/rpm」という数字と単位で「馬力」が表されています。
さて、これをCB400sfとドラッグスター400の関係に話を戻してして考えてみましょう。
- CB400SFは10500回転までエンジンを回していくと53馬力出ます、それが最高出力ですよ。
- ドラッグスター400の方は7500回転まで回していくと30馬力発生させ、これが最高出力です。
と、上の諸元表にはそのように書いてあるわけです。
こうして比べながら先ほどのボア×ストロークと一緒に見ていくと
CB400SFの方がショートストロークなので高回転までエンジンを回すことができ「力」を伸ばすことができます。
でも実際に乗ってみると…。
『いや、ドラッグスターの方が「力」が出てるんじゃないか?』そう思う人が少なからず出てくるものです。
それってどういうことなんでしょう?
トルクってそういや何だろう?
難しい話を排除して手っ取り早く言うと、トルクとは「出足の力の強さ」のことです。
また自転車の話に例えるなら…。
止まっている状態からペダルを「えいっ」と漕ぎだすときに出す踏み込む力の強さ。
これが 最高トルク のイメージです。
たくさんペダルを回さないとスピードがのってこない自転車もあれば、漕ぎだし一発目で結構なスピードになる自転車だってあるものです。
先述CB400sf はドラッグスター400より「馬力」は大きいと言うことでしたね。
トルクの表を見てみると…。
CB400SFの最大トルクは 38N・m(3.9kgf・m)/9,500r/min。
ドラッグスター400は 31N・m(3.2kgf・m)/6,250r/minとあります。
比較して読んでいくとこれは…
CB400sfは9,500回転までエンジンを回したときに初めて出足の力を最高3.9㎏f・m得ることができます。
でも、ドラッグスター400の出足の力の最高は3.2kgf・mの力を、6,250回転の時に得られます。
と読めるわけです。
こうして比較するとドラッグスター400の方がより低い回転数でCB400SF同様の出足の力を得られることになります。
つまりより低い回転数で高い最高トルクが出ているバイクは「トルクがある」と表現されます。
なのでこの2台を比べると「ドラッグスターはCBよりトルクがある」と言えるのです。
これをやはり、ボア×ストロークと一緒に見ていくと、
ロングストロークのエンジンは馬力を伸ばすことができないが、低回転でのトルクはショートストロークのバイクより勝る。
ということができます。
どうでしょう、「馬力」「トルク」「排気量」それぞれの関係は密接な関係があるのが解りますね。
まとめ
それぞれの用語の関連具合は難しいものですが、これまでのお話でこれらが頭の中で整理がついたでしょうか?
念のためおさらいします。
- 排気量はボアストロークで決まり
- ボアストロークはクランクシャフトの大きさで決まり、
- 「馬力は」エンジンの力の伸び具合を表したもので、ショートストロークのエンジンでは「馬力」が伸びやすいこと。
- 「トルク」は出足の力を表すものでロングストロークのエンジンでは「トルク」が大きくなる傾向があること。
そういうことです。
ヤマハFZR250’88(2KR) 参考元;http://moto.webike.net/bike/service/824/
筆者は学生の頃FZR250 ↑という4気筒高回転のバイクに乗っていました。
当時は諸元表の読み方はあまりよくわからず、ただ4気筒で「45馬力ある」ということしか知らなかったんですよ。
そんなある日、友達が2500・2気筒の40馬力のVT250 スパーダを貸してくれたんです。
4気筒の45馬力の自分のバイクよりも性能が劣ると思ってちょっと舐めていたんですが、実際乗ってみて40馬力しかないはずのスパーダの方が、45馬力の自分のバイクより明らかに力があるように感じてびっくりしたんです。
ずいぶん長い間「なんでだろう?」と思ってたんですね。正直諸元表を見てもそれが何故だか当時は全くわかりませんでしたし…。
どの数字が何を意味しているのか、どういう作用のことを言っているのかそういうイメージができなかったんです。
- ボア×ストロークが48.0㎜×34.5㎜ 直列4気筒 45ps/14,500rpm 最大トルク2.5kg・m/11,500rpmのFZR250
- ボア×ストロークが60.0㎜×44.1㎜ Ⅴ型2気筒 40 ps/ 12,000rpm 最大トルクは2.6㎏・m/9,000rpmのVT250SPADA。
でも今ならこうして諸元を並べてみると、排気量が一緒でも、ショートストロークとロングストロークの違いも分かります。
エンジンの中の様子をイメージして「なるほどこういう違いがあの乗り味になるんだな」というふうに理解できるんです。
これが分かったとき、頭の中がきれいに整理されたような気がしてすっきりしたのを覚えています。
バイクは試乗できないことが多いので、どんなバイクなのか他のバイクと比べたり、あらかじめ乗り味を知ることって難しいものです。
皆さんもお友達のバイクに乗せてもらったとき、「あれ何でだろう?」と思うときがありませんか?
諸元表がイメージで読み込めると、そのバイクに乗る前におおよその乗り味を想像して期待を膨らませて楽しむことができます。
バイク雑誌では本来感覚的なバイクの乗り味を一生懸命言葉を尽くしてプロのライターさんが書いてらっしるわけです。
そういう言葉も今回のように数値をイメージに変えることができれば、その記事の味わいは一層深まっていくでしょう。
車両を乗り比べる機会や気になる車両を狙っているとき、ぜひ試してみてください。面白いですよー。