TIMEWARP RIDERS CLUB

バイクは少年を大人に、大人を少年に還す。

バイクもそのうち全自動?ホンダ二輪上席研究員に聴いたバイクの未来像とは

乗用車では衝突回避ブレーキが汎用化され、自動運転機構もオプションで選べる時代になりました。

そして二輪車でも姿勢制御装置等を搭載したマシンがいくつか現れています。

車の場合は人を支援すること以上に、機械に判断をゆだねる領域に入ったわけですが、バイクの場合は果たしてどこまで、「人が操る楽しさ」を残していけるのでしょう?

今回はHONDA2輪R&Dの上席研究員の方に聴いた、メーカーが語る「バイクの近未来像」をお話ししていこうと思います。




「ココだけの話」を世界に配信中!

2017年5月13日、中央大学多摩キャンパスにおいて、(株)ホンダモーターサイクルジャパンと協働の「モーターサイクルフェスティバルby中央大学二輪愛好会&HONDA」が開催されました

↑雨でしたが、みんな「ホントに楽しかった」を連発していました。

バイク雑誌各紙も取材に駆け付けた注目のイベント全体の様子は、既に別の記事としてアップしていますので。そちらをご覧いただき、今回はそのイベント前半に行われた(株)本田技研研究所二輪R&Dセンターの林 徹(あきら)上席研究員による講義とディスカッションの内容をまとめてお伝えします。

内容はホンダファンはもちろん、バイクに乗る人必聴の内容!

大学の小さな教室に缶詰にしておくのは勿体ないので、筆者がその缶切り役になっておいしいところを選りすぐりながら、皆さんにお伝えてしていきます。

バイクの母は「マーケティング」

講義は「二輪車の開発について」というタイトルで、林上席研究員の自己紹介に続き、

  • 「世界の二輪マーケット」
  • 「二輪を取り巻く課題(環境問題)」
  • 「二輪を取り巻く課題(安全問題)」
  • 「今後二輪車に求められる先進技術」
  • 「基礎研究と量産までの流れ」

という6つのテーマ。

土曜の朝から10時から約2時間に講義にも関わらず、瞼を重くする学生さんは皆無!

今回の講義を拝聴したのは商学部等社会系や、工学部等理系の学生さんたちで、マーケティングや開発・技術面でのお話しに自分たちの将来像を重ねる彼らの目は、むしろ光り輝きいていました。

今回講師を務められた林上席研究員は、長年ホンダの主要製品開発に携わられた方。

初代のDio(AF18 )の開発など「えっ、あれもこの方が?!」と身近な製品もたくさん生み出したで、近年ではあのダブルクラッチトランスミッション(DCT)の開発も手掛けられているエンジニアです。


↑林 徹(あきら)上席研究員、さらっと画像一枚にまとまったご経歴のパネルですが、この行間に相当な苦労があるに違いありません。

「世界の二輪マーケット」については、近年ホンダが発表した新車を例にとりながら、リアルで思わず「おっ!」というような貴重なお話しがたくさん飛び出します。

例えばそれはX-ADV。

こんな発売間もないバイクについても奥深いお話を聞くことができました。


↑X-ADV 倒立サスとスポークホイールに本気度満載なATアドベンチャーバイクは斬新そのもの。
ダブルクラッチトランスミッション(DCT)のおかげでATでありながら力強い走りが気軽に楽しめる、

X-ADVは本格的なオフロード走行もこなせ、それでいて大型スクーターのように普段使いのコミューターとしても機能する斬新なバイク。

「ヨーロッパは大型スクーターとアドベンチャーバイクの需要高く、石畳の多い土地柄、そういったマーケティングを反映させたのがX-ADV」というお話です。

受講していた学生さんたちは、バイクがマーケティングから生み出されるダイナミズムに大いに刺激を受けてた様子。

午後の試乗会に持ち込まれたX-ADVには「僕も俺も」と学生さんたちが跨り、「石畳からこのバイクがねぇ~」と各々に「ヨーロッパ」を感じていたようです。

そして、話題のCBR250RRについてのお話。これは聞きものでした。


↑今回残念ながら試乗会には持ち込まれませんでしたが、モーターサイクルショーでは満を持して登場したCBR250RR(日本仕様)に黒山の人だかり。

筆者もこのバイクの開発がヤマハの「YZF-R25」を比較対象車にしながら行われてきたことは、これまでの執筆の中で知っていましたが、お話の中で林上席研究員は…。

「うちはこのクラスにシングルしか持ってなかったので、ヤマハが(2気筒で)出てきて頭来て造ったんですよ、やりたいことみんなやっちゃえってね…」

そうおっしゃいます。

「昔からヤマハとは技術の上でケンカばっかりやっててね…」ともおっしゃっていました。

昔から世に言う『H/Y戦争』、ガチだったようです。(というか今もなんですかね?…。)

「頭にきた」という内容ももうちょっと伺いたかったですが、これはおそらくこれまで筆者が書いてきた内容からして…。

2010年~Hondaは単気筒のCBR250Rをタイで生産し、このクラスのレースカテゴリーを新たに創設。

そうして現地の生産力の底上げを図りながら、低コストでも幅広い層に受ける世界戦略車の生産モデルを作り上げたわけです。

しかしそこにそれまで250㏄ミニスポーツを投入してこなかったヤマハが、インドネシアで2気筒のYZF-R25を生産してCBR250Rのセールスを上回ります。

このお話の「頭来た」とはそういうことでしょうね。(たぶん)

現地で先行発売されたCBR250RRはインドネシア工場での生産、まさに「怒りのインドネシア・怒りのRR」といったところでしょうか?(※日本仕様は熊本工場製)

こうして、技術競争・マーケティング合戦の裏側を垣間見て、学生さんも興奮しきり。(いや、これは間違いなくバイク関係者なら誰でも興奮するところです。)

技術は課題に洗練される

「二輪を取り巻く課題」については、環境対策と安全対策に関する課題に対して技術で果敢に挑戦していくメーカーの姿勢を知ることができました。

環境対策技術について

現在、先進主要国の多くでバイクは、いわゆる「ユーロ規制」による厳しい環境規制をクリアしなければ販売そのものができません。(※アメリカは独自の枠組み)

しかし世界の2輪マーケットの大半を占めるアジア新興国はその枠組みの中には入らず、コストのかかる環境対策を見送っていた地域でもありました。

しかし、近年それらの国でも積極的に2輪の環境対策を施すようになって、特にインドは世界の主要国と同等にバイクに次年度から規制値をユーロ規制を採用することになったと言います。

インドの場合、バイクの年間生産台数は500万台。そのすべてを、たった一年の移行期間でキャブレター車から新開発のインジェクションに置き換えて造っていく必要があるのです。

しかしこれに対して林上席研究員は

「今はこうした難しい課題を抱えているけれども、Hondaはこれを必ずやる」

と言い切ります。

「情熱とその熱さ」それを感じるからこそ、学生さんたちも身を乗り出して聞いていたんでしょうね。(オッサンである筆者も熱くなりましたよ。)

ゼロエミッションへの取り組み

Hondaではさらに先を考え「ゼロエミッション」への取り組みを始めています。

複数あるゼロエミッションの方法としてHondaはEV、(電動バイク)の研究を始動。

すでに2015年のモーターショーにEVカブのコンセプトモデルを出展しています。

参照元;http://www.honda.co.jp/design/TMS2015/

↑ 2015年モーターショー出品の「EV-CUB」、2年後が待ち遠しい!

このコンセプトバイクのモチーフが「カブ」となったことについて、

「ウチ(ホンダ)でEVやるならまずカブでしょう」

ということで決まったそうです。

「カブ」と言えば、Hondaにとっては創始者本田宗一郎の息のかかった原点とも言うべきヘリテイジバイク。

これについては2年後の実用化を目指しているというお話で、「ココからはじめるぞ!」という力を感じますね。

安全への取り組み

これまでも技術を昇華させながらバイクが環境に適応し難しい状況を乗り越えてきたことがお話から分かりました。

しかし例えすべてのバイクがEVになったとしても、バイクが社会から排除される可能性も全くなくなるわけではありません。

その一番の要因になるのがやはり「事故」です。

既に4輪車では自動ブレーキが多くの車種に採用され、自動運転で車の方が事故を回避してくれるようにもなってきています。

バイクは車のように移動手段ではありますが、そこはただ乗っているということではなく、人が操って機動性を発揮することに意義があります。

なので今の車の方向性がそうであるように、バイクも「機械にすべてお任せ」になってしまうのか?またそれがバイクと言えるのか?

気になるところではないでしょうか?

林上席研究員のお話からその辺の大事なところを紐解いていきます。

バイクはあくまで人が中心

 2輪メーカーには「二輪死亡事故を今の半数に抑えること」という世界的な課題があるそうです。

当然、これにも大変な課題ですが果敢なチャレンジが行われています。

具体的に研究が進められているのがITSという技術。

これは予防安全・緊急通報の上で研究が進む技術で、ITS(Intelligent Transport Systems)を略したもので、予防安全と緊急通報技術の二つが盛り込まれる予定で現在二輪用に最適化する実験が行われていると言います。

簡単に言うとこれは

  • ドライバーに二輪車の存在をいち早く伝える
  • 事故時の救急通報を可能にしてライダーが素早く救援されるようにする

ためのもので、大幅に事故の防止、事故対応の迅速化によるダメージの軽減に絶大な効果を期待されています。


↑ITSのイメージ
参照元、株式会社 本田技研研究所 二輪R&Dセンターパネル資料より

すでに4輪車には、背後から迫って来追い越し車の存在を知らせる等ITS技術が装着されている車種もあります。

しかし2輪用には振動対策や防水化などが必要で、車用を流用することができないという課題があるため専用開発する必要があるのだそうです。

安全課題はホンダだけでなく二輪環境として各メーカーの共通課題。

環境技術同様ライバル社ともにコンソーシアムで開発を推進させながら現在既に実験段階にあり、そう遠くない将来一般的に手の届く状態でお目見えするようです。

林上席研究員によると「他社『自動化』についていろいろな研究・実験を行っているようですが、バイクというものの性質を無くさないために、

Hondaとしてはやはり『人を中心に据えた開発』でなくてはならない」

と語気を強く述べられました。

このITSのお話から、二輪車の自動化と言ってもそれは、あくまで人をサポートする方向で開発が進んでいることがわかりますね。

バイクの楽しみをこれからも享受したい学生さんたちにとっても一安心なお話しです。

Hondaが考えるバイクの未来像

ITSはコンソーシアムで進んでいる研究ですが、Hondaは独自に予防安全を形にしたバイクを研究しています。

つまりそれは「転ばないバイク」の研究です。

各社いろいろある中で、Hondaの場合はASIMOのジャイロ技術を応用して2輪のままバイクが完全に自立できる「ネガティブトレールバイク」を造りました。

過日ホンダは2017年3月のモーターサイクルショーに先立って、この「ネガティブトレールバイク」が自立して低速で走る動画を発表して話題となっています。

映像参照元;(株)本田技術研究所

当時映像を見た人の反応は「バイクもとうとう全自動かよ」と喜んだり嘆いたり様々でしたが、この辺について林上席研究員はこうおっしゃいます。

「これは車が自動化されていく社会の中でも2輪車が排除されないようにと考えたものです。
ただ全部をバイクに任せきれるようにはしていなくて、やはり人が操作しないといけないようにしています。
中心はやっぱり人なんですよね。
だから、動画の中の歩く人にこのバイクが自立してついていくシーン、これちょっとやりすぎちゃったかな?」

学生さんたちも映像に「スゲー!!」と夢中になり、このお話には納得と共に笑いも起こっていました。

空冷バイクはなくなっちゃうの?

実はこれは講義の後に筆者が質疑応答で質問させていただいた内容になりますが、CB1100に関して頼もしいお話をいただきましたので合わせてお伝えします。

筆者は今年50周年を迎えながらも生産継続を終了するモンキー50Zが廃盤になることを例に「今後、人気車種が環境対策で失われていくことを食い止められないものか?」という質問をさせていただきました。

林上席研究員は、

「もちろんロビー団体を通じて規制をかけてくるところとは協議してこちらから意見をいうことはあります。

しかし役所の方も知ってるんだかずるくてね、(環境対応が)『できないのか?』と言って持ってくるんだよ。

するとこっちは技術者だからできないとは言えないよ、カチンときて『できるさ、やって見せる』と言ってやってのけるんだ」

また他社で空冷モデルが多数廃盤になることについても、

 

「これはねぇ、本当悲しいことですよね。

でもうちにもCB1100やってるけどこれなんかは日本専用のモデルでね、このクラスで海外需要に頼らず日本専用に作るというのは今非常に難しいんです。

特に空冷車種の難しさもあるんだけど、Hondaはこれからもこの形を残していくよ。

今のバイク、昔からすりゃ有害なガスなんてほとんど出てないんだ、そのほかのところを頑張ればこれもできるんだよ。」

 

そんな風にお話してくださいました。(音叉歴30年の私もこれにはクラっときましたよ、カッコいい!)

参考元;http://www.honda.co.jp/CB1100/

’69 CB750K 以来のヘリテイジスタイル。「Hondaはこれを残す」という言葉はファンにとって心強いんじゃないですか?

まとめ

さて、内容盛りだくさんの2時間に及ぶ講義、これでもかなり端折りましたが、おいしいところはお伝えできたのではないかと思います。

今回は将来有望な学生さんたちを対象にした技術と社会、それを繋ぐマーケティングについてのお話しでしたが、一貫していたのは「夢」のお話し。

これまでもこれからも、課題に対し「ありたき姿」を描いて検討努力を重ねながら実現させていく姿勢が大切。

「ことあるごとにうちの会社は「夢」という言葉を使ってそれを大事にしてるんだ」。

林上席研究員はそうおっしゃいます。

お話を聞いて、創業者である本田宗一郎氏の思想が会社に深く根付いているのだなと深く感心しました。


参考元;http://www.honda.co.jp/50years-history/limitlessdreams/index.html

同時に『夢膨らむ学生のうちにこんなお話を聞いたら、どんなに幸せだろう?』と25年前の大学生は末席で思っていました。

また、バイクにはまだまだ明るい未来が広がっていることを確信し、色々な意味で力をいただいたような気持です。

それはきっと学生さんたちも同じだったと思います。

今後他の大学でも公演が予定されるようで、いろんなところで将来ある学生さんたちの「夢」を膨らませていっていただきたいですね。

今回学生さんの為の場で不躾にも質問をさせていただき、親切にお答えいただいた林 徹上席研究員はじめ、当日関係された方々に心からお礼申し上げます。

ありがとうございました。

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